論述試験の勉強もいよいよ中盤。
これまで、システマティック・アプローチを中心に、複数のアプローチ理論を整理してきました。
今回はそこから一歩踏み込んで、「誤りの見抜き方」と「答案での伝え方」についてまとめていきたいと思います。

1. “誤りを指摘する”とは何か
キャリアコンサルティング技能士1級の論述試験では、事例相談者(キャリコン)の面談の進め方に対して、「どこに問題(誤り)があるのか」を論理的に指摘する力が求められます。
ただし、ここで誤解しがちなのが、「誤りを探すこと」=目的ではないという点です。
論述試験は減点を見つけるのではなく、より良い相談支援に導く“改善提案”。
つまり、「支援の質をどう高めるか」という視点で誤りを捉えることが本質になります。
この意識があるかどうかで、答案全体のトーンが大きく変わってくると思います。
2. 誤りを“構造的に見抜く”3つの視点
誤りを探すときは、感覚的にではなく構造的に整理することがポイントではないか。
私は次の3つの枠で整理しています。
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関係構築面(初期段階の誤り)
受容・共感・自己一致が不足し、相談者が安心して話せていない。
→ 例:「それはこうした方がいいですよ」と助言が早すぎる。 -
問題把握面(中期段階の誤り)
本人要因・環境要因・発達課題の整理が不十分。
→ 例:相談者の語りの背景にある“価値観”や“成長課題”を見落としている。 -
方策提示面(終結段階の誤り)
相談者の主体性を奪うアドバイスになっている。
→ 例:「ではこの資格を取ってみましょう」と方向づけてしまう。
この3区分で誤りを分析できると、答案の構成が安定します。
特に1級では、誤りの指摘だけでなく「根拠」と「改善方向」をセットで書くことが大事なポイントになるのではないか。
3. 答案では“減点指摘”ではなく“成長提案”の文体で
論述答案は、単なる指摘文ではなく「支援者としてどう見立て、どう改善するか」を問う文章です。
たとえば次の比較で考えてみる。
✗:
事例相談者は助言的態度が強く、相談者の気持ちを十分に受け止められていない。
◎:
事例相談者は助言的態度が強く、相談者の語りの背後にある不安や迷いを受容・共感的に聴けていない。
その結果、信頼関係が十分に形成されず、相談者が自己理解を深める機会を逃している。
よって、初期段階ではまず受容・共感を基盤に安心して語れる関係づくりが必要である。
このように、
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誤り(何が起きたか)
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理論(なぜそうなったか)
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影響(どういう結果を招いたか)
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改善(どうすべきか)
の4ステップをワンセットで書くと、論理の流れが明確になり、安定します。
「批判」ではなく「成長を支援する言葉で書く」――これが大事なポイント!?
4. ケースで考える ― 誤りの背景を見抜く練習
たとえば次のような事例ケースを考えてみる。
事例:
相談者は30代後半の男性。
「最近、仕事の成果が出ず、上司との関係もぎくしゃくしている」と悩んでいる。
事例相談者は「まずは上司と話してみましょう」と助言したが、
相談者は「わかりました」と言い残して次回の面談に現れなかった。
この場合、誤りを「助言が早い」と一言で片づけてしまうと浅くなります。
1級のレベルでは、もう一歩踏み込んで“構造”を見抜きます。
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事例相談者は、相談者の感情ではなく行動に焦点を当てた。
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その背景には、支援者自身の「早く成果を出してあげたい」という焦りがある。
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相談者は「理解されていない」と感じ、面談継続の意欲を失った。
つまり、誤りの根本は「行動への焦点化」ではなく、
その背後にある支援者の未整理な感情(焦り)にある。
論述試験では、こうした心理的背景まで見抜いて書けるかどうかが評価の分かれ目ではないでしょうか。
5. 答案で差がつく“表現トーン”の工夫
「表現トーン」も注意したい。
厳しすぎる指摘は支援者としての姿勢を疑われ、逆に曖昧な表現では説得力を失う。
大切なのは、冷静でありながら温かい文体を保つこと。
たとえば次のような表現を意識するとバランスが取れます。
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「〜であるが、〜の配慮が求められる」
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「〜に留意し、〜の支援を行うことが望ましい」
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「〜と捉え、〜の観点から再整理する必要がある」
この“穏やかな客観性”こそが、1級らしい答案の品格になるように感じます。
つまり、専門家としての冷静さ × 人間理解の温かさ。
その両立が、論述試験でも実技でも問われるのではないでしょうか。
6. 今日の気づき(勉強ノート)
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誤りの指摘は「減点」ではなく「成長支援」のために行う。
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初期・中期・終期の構造で誤りを整理すると書きやすい。
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理論を根拠に書くことで、答案に一貫性と説得力が生まれる。
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指摘文は「冷静 × 温かさ」のトーンを意識する。
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“誤り”の背景にある支援者自身の心理にも気づくこと。
本日もお読み頂きましてありがとうございました。